《14》座談会/アジアの持続可能な都市づくりに対する横浜市への期待 ビンドゥ・ロハニ 前アジア開発銀行副総裁 メリー・ジェーン・オルテガ シティネット特別顧問 アルフォンゾ・ヴェガラ ファウンダシオ・メトロポリ代表 進行 橋本 徹 国際局担当理事(国際協力部長) ―― 本座談会は、「カーボンニュートラルの実現に向けた都市間連携によるスマートシティ〜コロナ時代の展望〜」をメインテーマに掲げる第9回アジア・スマートシティ会議(※1)のプレイベントとして、2020年12月にウェブセミナーにより開催されました。 都市間連携の意義や、横浜市がアジアにおける持続可能な都市づくりのために果たすべき国際協力や貢献について、Y-PORTセンターアドバイザーの皆様に議論いただきました。 【橋本】皆さま、こんにちは。本セッションは、Y-PORTセンター・アドバイザー座談会です。アジア開発銀行(ADB)(※2)前副総裁のビンドゥ・ロハニさん、元サンフェルナンド市長でシティネット(※3)前事務局長で現在は特別顧問のメリー・ジェーン・オルテガさん、ファウンダシオ・メトロポリ(※4)代表のアルフォンゾ・ヴェガラさんの三名にご一緒いただきます。  ビンドゥさんは今ネパールのカトマンズからの参加ですか。 【ロハニ】はい。カトマンズにいます。 【橋本】わかりました。メリー・ジェーンさんはどこから参加されていますか。 【オルテガ】フィリピンのルソン島からです。 【橋本】アルフォンゾさんはどこから参加されていますか。現地は今何時ですか。 【ヴェガラ】マドリードからです。今、午前8時40分です。 【橋本】本日は朝早くから参加いただき、ありがとうございます。  ここにいらっしゃる皆さまは、国際開発金融機関ご出身の専門家、元市長、また都市開発の専門家ですが、開発を考える上で、都市が重要になりつつある理由や、国際協力がますます必要とされるこの新しい時代の下での地方自治体の役割に焦点を当ててお話を伺っていきたいと思います。 ■地方自治体の役割、都市間連携の意義 【橋本】それではまず、地方自治体の重要性とは何か、地方自治体同士の協力を深めるために何ができるのか、なぜそれが有意義なのかについて、ビンドゥさん、メリー・ジェーンさん、アルフォンゾさんの順にご意見をいただけますか。 【ロハニ】アジアでは、2050年までに人口の約65%が都市に住み、GDPの約80%が都市に集中すると予測されています。どう見ても、都市は重要なエコシステムになるでしょう。都市はまた、CO2が排出される場所でもあり、人々が緑のあるきれいな環境で生きることを学ばなければならない場所でもあります。2030年までのSDGsの取組達成に向け、横浜市のような都市から学ぶだけではなく、都市同士がお互いに学び合う必要があります。多くの国・都市がSDGsに責任を持って関わっていますが、これは未解決の課題だと思います。  同様に、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロといった目標や、「1.5℃特別報告書」においても、これらのコミットメントが実施されることになっています。例えば、私の記憶が正しければ、横浜市はすでに、2050年までにカーボンニュートラルな都市になることを宣言しています。日本を含む120か国が2050年までに、中国は2060年までに、カーボンニュートラル、温室効果ガス排出実質ゼロとなることを決定、合意あるいは約束しています。都市には多くの人々が住んでいることを考えると、都市はエネルギー、水、交通により多くの資源を消費していますので、都市もこの問題解決にどのように取り組むことができるかを考える必要があります。  地方自治体は、この世界的な課題に取り組む大きな責任を負っています。この課題は国家的な課題でもあり、最終的には地方の課題となります。  アジアの多くの開発途上国ではまだ実現していませんが、横浜市やビルバオ(スペイン)のような存在になるために、これから助けが必要な都市に目を向けて話したいと思います。ちなみにビルバオは、シンガポールにおいて、目覚ましい変化を遂げた都市の一つとしてリー・クアンユー世界都市賞(※5)を受賞しました。  私は、アジアの地方自治体が総合的なまちづくりを進めていくべきだと思います。アジアの都市では、港湾地区、スラムなどにおける包摂性の問題が依然として残っています。地方自治体はそれらに取り組まなければならないと思います。私たちには、やるべきことがたくさんあります。  例えば大気汚染対策では、クリーン・エア・アジア(CleanAir Asia)という組織があります。そこでメリー・ジェーンさんはとても精力的に活動されていました。彼女の経験や知識に比べれば私はまだまだ駆け出しです。アジアでは廃棄物管理など大気汚染対策につながる仕事がたくさんあります。これらはアジア諸国が解決していかなければならない課題です。彼ら自身が知識を得ることが必要であり、例えば横浜市のY-PORT事業や都市間協力等の先例を見に行くほうが良い場合もあるでしょう。  また、少し長期的な視点から、都市間の持続可能性に着目し、地方自治体が電気自動車などの交通政策のような新たな政策を打ち出していくことはとても重要です。  さらに、アジアの多くの都市ではほとんど見られない循環型経済、リデュース、リユース、リサイクルも重要であり、もっと取組を進めるために、考え直さなければなりません。  気候政策についても、既存のインフラにおける気候変動対策の適応だけでなく、今後多くのアジア諸国でインフラ整備が見込まれることから、低炭素技術などの新しいインフラ構築方法などに全面的に変えていく必要があります。  これは、テクノロジー分野のベストプラクティスについて知識が豊富なY-PORTが、アジアの地方自治体に提供できる部分だと思います。民間部門は独自の技術のみを地方自治体に提案しようとしますが、地方自治体は、本当にこれが最高の技術なのか、それとも単なる売込みの一つなのか、判断に悩むことがあります。私たちの仕事は、Y─PORTを通じて、誠実な仲介人として、彼らにとって良いものを持ち寄ったり、2つの都市をつないだりして、彼らが自分たちで考えられるようにすることです。  さらに、新型コロナウイルスは無視できないテーマとなっており、コロナを前提として生活を維持していくためには、都市や交通、建築構造物のあり方、仕事と消費生活のバランス、買い物における人と人との距離のあり方などを考えなければいけません。これらは今検討されているところですが、私たち全員が共に考えなければならないことです。横浜市をはじめ、すでに取組を進めている都市が今後参考になるかもしれません。 【橋本】ありがとうございました。メリー・ジェーンさんは、都市をけん引していく立場であり、都市同士の連携による取組も進めていますよね。そういった背景も踏まえてどう感じますか。 【オルテガ】新型コロナウイルスでの私の経験になりますが、政府が様々な政策を打ち出しました。  しかし、それらの政策の下、用意された救援物資の配布作業は誰が行ったのでしょうか。地方自治体です。感染者の検査や追跡の作業を行ったのは誰でしょうか。これも地方自治体です。  これこそがシティネットのビジョンなのです。シティネットになじみのない人たちのために申し上げたいと思います。1987年、国連人間居住計画(ハビタット)、UNESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)、UNDP(国連開発計画)はすでに、都市化された世界が迫っていることから、地方自治体を率いるリーダーの能力を強化しなければならないと考えていました。  私が気付いたことの一つは、能力強化が行われた都市ほど、新型コロナウイルスの問題にうまく対処できていたということです。うまく対応できなかった都市は何をすればいいのかわからず、言われたことに従うしかなく、一つも解決策を打ち出すことができません。国は地方自治体の複雑な事情を知らずに、一般的な政策を打ち出しますが、地域の実情を理解しているのは、地方自治体を率いる市長なのです。  私はフィリピンの状況と比べて考えてみたかったため、新型コロナウイルスに関する林市長のすべてのメッセージを拝読しました。フィリピンでは、ロールモデルとなる市長はいるだろうか。この危機にうまく対応したリーダーを市民に伝えなければならないと考えています。  アジア太平洋地域を見てみると、林市長や横浜市は新型コロナウイルスの課題解決によく取り組んでいると思います。また、台北市、ソウル、ベトナムもうまく対処していると私は見ています。  私たちは彼らから何を学ぶことができるでしょうか。周りを見回して、誰が実施したか、またこのようなときにやってはいけないことは何かということも同時に検討しなければいけません。  もう一つ気が付いたことは、過去の経験から学び、それを今日のような日のために活かさなければならないということです。私たちは、新型コロナウイルスのことをまだよく知りません。SARSやMERSを経験した都市は私たちよりも準備ができていたと思いますが、それでも新型コロナウイルスは私たちにとって全くの未知の世界でした。だからこそ都市間協力が必要であると思っています。  横浜市には、フィリピンのセブ・マニラをはじめ、複数の連携都市があると聞いています。横浜市とセブは手を取り合って活動していますよね。マニラにもそうしてほしいです。災害対策のためにイロイロ市にも手を差し伸べていますね。都市間協力において、私たちは見習うべき都市はどこなのか、また、うまくいっていない都市から何を学ぶことができるかを考えています。  横浜市の新型コロナウイルスの対応は良かったと思います。誰もがロックダウンのことばかり考えていた中で、横浜市はすでに経済復興のための計画を立て、文化、芸術にも目を配っていました。新型コロナウイルスと戦う中で、多くの人々は健康のことや最前線の人たちのことは考えるものの、家に閉じこもっている人たちを精神的に支える文化的なイベントについては考えていませんでしたが、横浜市はそういった分野にも配慮しました。  ここに来て、フィリピンでは60歳以上の人は外出してはいけないと言われています。でも、もし自分に何か手助けができると思うなら、そして自分が十分に健康だと思うなら3つのC(Closed spaces閉鎖空間、Crowded places混雑している場所、Close contact settings密な接触)への対応として、マスクをして、人混みを避けて、人との濃厚接触を避けて、私たちは地域社会を助けるために自分の役割を果たさなければいけないと思います。60年以上年を重ねてきた人には知恵があるものです。弱者のように扱われる必要があるでしょうか。もちろん病気や持病があるなら、外出してはいけませんが、健康であれば、地域社会を助けることができないはずがありません。  私は電動自転車や自転車で出かけることに賛成です。一方で、公共交通機関をどうにかしなければなりません。公共交通機関の混雑をどうやって避けるかといったことを調査・研究すべきだと思います。  以上が、私が考えていることであり、我々が他の都市を参考にすべきことについてお話ししました。このようなウェブセミナーは、私たちが見落としているかもしれない重要なことを再発見し、修正して方針を立てることができるという点で重要だと思います。 【橋本】ありがとうございました。アルフォンゾさんはこれまで多くの都市間連携を主導しています。新型コロナウイルスやカーボンニュートラルの取組において、この連携は今後変化していくと考えますか。また都市同士が連携することの意義をどのように感じていますか。 【ヴェガラ】様々なレベルでの連携は本当に重要で、特に都市にとって連携は必要不可欠です。私の考えでは、都市がビジョンや計画を持っているかどうかが、連携を加速させ、促進させるための重要な要素だと思います。今日、私たちは気候変動やパンデミックの問題に直面していますが、都市を今一度、再考することは非常に重要です。  例えば、将来的には住宅のあり方も変わってくるでしょう。私たちは住むことと働くことの両方ができる場所を必要としており、ハイブリッド住宅が必要になるでしょう。オフィススペースも変わり、仕事をするために行く場所ではなくなり、創造性のための交流を行う場所になるでしょう。商業施設はEコマース(電子商取引)の影響で大きく変わるでしょう。教育施設、モビリティや公共空間のあり方さえ変わっていくでしょう。  世代を超えた連帯が鍵になります。新しい方向性、全く新しいものが必要であり、また、これまで以上に都市が都市計画を定めていく必要があります。これは技術だけの問題ではありません。  スマートソリューションへの挑戦は、単に低炭素技術だけではなく、都市の戦略形成にいかに取り組むかであり、都市の戦略とは、リーダーシップ、ビジョン、倫理的コミットメントのことです。この点で私たちは多くの課題を抱えています。  都市の連携を加速させるためには、将来の都市の方向性を知る必要があります。市民参加型の都市プロジェクトには、都市のリーダーシップが何よりも求められます。  それぞれの都市の違いを決定するのは、一人当たりの所得や都市の規模ではありません。明確なビジョンや計画を持っているかどうかで決まります。これは非常に重要なことで、変化を加速させるためには新しいリーダーシップと都市計画が必要であり、そのためには連携が必要なのです。 【橋本】ありがとうございます。ビンドゥさんがおっしゃっていたのは、都市が拡大しているということですが、その一方で、CO2排出量の削減や循環型社会や包摂的な社会の実現などの課題に直面しているということ、それがあなたの見解ですね。これらは本当に大きな課題ですが、いくつかの都市はうまくやっていることであり、より生産的な方法を学ぶことができます。  メリー・ジェーンさんの指摘した問題は、政策が国レベルのものであっても、地方自治体の政策実行段階で多くの差が出るということです。なぜなら、いくつかの都市はおそらく良いリーダーシップや資源、経済成長により政策を上手く実行できますが、いくつかの都市はうまく実行できないかもしれません。そのため、ビンドゥさんの指摘にもありましたが、一部の都市は過去にすでに同じ問題を経験しているため、まだ経験していない都市に対して良い事例を示すことができます。そういう意味では、都市はもっと連携していくべきだと思います。  アルフォンゾさんの指摘は、世界は共通の課題を抱えているということ、そして、それを解決する方法があるということです。そのためには、デジタルと相互の働きかけをもっと充実させるべきだ、ということがアルフォンゾさんの見解だったと思います。 ■横浜市が行うべき国際協力 【橋本】続いて、横浜市について皆さんにお伺いしたいと思います。  ビンドゥさんの働きかけにより、横浜市が地方自治体として初めてADBとのMOU(覚書)を締結しました。  メリー・ジェーンさんは、シティネットの事務局が横浜市にあったときに事務局長を務めておられ、横浜市のことをよくご存知ですね。  アルフォンゾさんは、横浜市がリー・クアンユー世界都市賞に立候補したときに、選定委員の立場から、横浜市は非常に生産性が高く、それを世界に共有できる街だと評価してくれました。それがリー・クアンユー世界都市賞の特別賞に選ばれた理由の一つだと思います。  お三方は横浜市のことをよくご存知ですが、横浜市には良いところもあれば悪いところもあります。横浜市が国際的な都市間連携を通じて、他の都市に対してどのような支援ができるのか、皆さんの考えをお聞かせいただけますか。 【ロハニ】横浜市は、短期間で独自のブランドを作り上げたと思います。アジアの多くの都市は、今あるものをどのように改修し、どのように再開発や都市の新規エリア開発を行うか、そして最終的には、持続可能で住みやすいセカンダリーシティ(メガシティに続く規模の都市)になるにはどうしたら良いか、ということにまだ苦労しています。ここでは1千万人以下の都市をセカンダリーシティと呼んでいます。  私の見るところ、横浜市は参考にすべき良いモデルだと思います。ヨーロッパにも良いモデルとなる都市が複数あります。私の知る都市の多くは、アジアに限定されていますが、シンガポールは横浜市と並びます。横浜市には横浜独自のスタイルがあり、シンガポールにはシンガポール独自のスタイルがあります。しかし、横浜市はアジアの多くの国が見習いたいと思っている良いモデルの一つだと思います。横浜市の独自性は、かつては他のアジアの都市と同じように大気汚染、水質汚染、廃棄物処理の問題を抱えていたのに、それらを乗り越えて現在のレベルにまで改善したという事実にあるといえます。  この変化を見た人々は、これは自分たちもできることであると考え、そこに希望を見い出しています。横浜市が行ってきたことのユニークさは、Y-PORTをつくったことです。世界的にも地域的にも様々なベストプラクティスや有益な知識を集めることができましたし、ましてやナレッジハブとして機能している都市はそう多くはありません。  一つ例を挙げてみましょう。私がADBにいたとき、「ファイナンス・プラス・プラス」というシステムをつくりました。なぜ「ファイナンス・プラス・プラス」をつくったかご存じでしょうか。私たちは、十分な資金を持っていましたが、地方の側では、資金だけが必要なわけではなく、それ以外のプラス面、つまり、資金をより有効に活用する方法を知ることができるプラス面も欲しかったのです。  二つ目のプラスは、知見を持ってくること、ベストプラクティスを紹介することです。過去20年間ADBが行ってきたことと同じことはしたくありませんでした。新しい知識と新しい技術をセットで紹介するという仕事のやり方を誕生させ、私たちはさらにそれを改善してきました。  横浜市の場合は、ナレッジハブになったといってもよいでしょう。今こそ「ナレッジ・プラス・プラス」を作るべきです。私たちは「ファイナンス・プラス・プラス」をつくりましたが、ナレッジは二つ目のプラスでした。横浜市はナレッジハブを持っているのですから、このナレッジを一つ目のプラスに転換し、二国間協力、多国間協力、都市間連携、B to B(企業間取引)連携など、あらゆるものを通じて、具体的なプログラムやプロジェクトを都市で展開するためにはどうすればよいか検討する必要があります。 【橋本】ナレッジとそれがもたらす発展、これは素晴らしいです。 【ロハニ】「ナレッジ・プラス・プラス」の二つ目のプラスは、ファイナンスです。多くの国や都市は資金面で厳しい状況にあります。特に新型コロナウイルスの後は、多くの国で財政赤字が発生しており、都市は資金不足に陥りつつあります。もし「ナレッジ」だけでプロジェクトを実施し、次に二つ目のプラスである資金を供給するという順序では、コラボレーションするのはとても難しいでしょう。都市間、B to B、二国間、多国間の協力や、JICA(国際協力機構)、ADB、世界銀行などとも協力して、全体をパッケージとして提供するべきです。  YUSA(YOKOHAMAURBAN SOLUTION ALLIANCE)という組織があることは民間セクターを呼び込むための非常に良い方法だと感じています。なぜなら、民間部門はナレッジと技術を持ち、また儲ける必要があるため、この領域に参入する必要があるからです。公的部門、多国間、二国間を参加させ、民間部門が利益を上げることを助けられるようになる必要があります。そして、そのようなアプローチは、横浜市のユニークさだと思います。 【橋本】ありがとうございました。前ADB副総裁から非常に力強い言葉をいただき、光栄です。メリー・ジェーンさんはどう思われますか。 【オルテガ】私が2009年にシティネットに入ったとき、横浜市は開港150周年を迎えていました。私は、1859年にすでに横浜が開港していたという事実を忘れることができません。港を開くということは、両手を広げて人々を歓迎するということであり、横浜の人々の、歓迎したい、助けたいという意欲の表れだと思います。  私が良い例として共有したいのは、セベランプライ(マレーシア)のケースです。私がシティネットの事務局長をしていたときに、セベランプライのマイムナ市長が私に声をかけてきて、「メリー・ジェーン、セベランプライを発展させる方法を横浜市から学びたいので、横浜市に連携の打診をしてほしい。」と言ったのです。 林市長は、マイムナ市長の訴えに耳を傾けてくれました。マイムナ市長は、市長としてよい仕事をし、次にペナン市長になり、今はハビタットの事務局長になっています。もし、彼女がセベランプライを今のように発展させていなければ、事務局長にはなれなかったでしょう。横浜市が連携パートナーになってくれたことに感謝しています。  私は、横浜市が両手をもっと広く開いて、もっと多くの都市と連携を行うことを提案したいと思います。例えば、(シティネット会員である)キルティ・シャーさんからは、アジアの都市とインドの都市についてのウェブセミナーを開催できないかと言われました。ムンバイは姉妹都市ですが、インドには他にもたくさんの都市がサポートを必要としています。私はぜひ実現させたいと考え、横浜市にもぜひ協力していただきたいと思っています。これらの都市がどのような支援を必要としているかを理解していきたいと思います。  横浜市の強みは、スマートシティ、デジタライゼーション・テクノロジーの活用、固形廃棄物管理、都市計画、芸術文化、そして中小企業を支援できることです。横浜市内の企業の99%が中小企業だという資料を読んだことがあります。私は、融資を通じて中小企業をサポートしてきた横浜の取組は適切だと考えています。  話は変わりますが、フィリピンにもレストランが多くあり、横浜市の技術支援を求めたことがあります。廃棄物を動物の飼料や、他の用途に使えるようにする技術です。  しかし、新型コロナウイルスの影響で、今では多くのレストランが閉鎖され、観光業は苦しんでいることから、この廃棄物の資源化の技術は、今すぐには必要なものではないと考えるようになりました。アルフォンゾさんが言っていたように、方向転換をしなければならないと私も思います。小さな都市でも大きな都市でも中規模の都市でも関係なく、プロセスの方が重要なのです。そのプロセスを学ぶことができれば、あとはどんな人でも、自分たちの問題を解決したり、固有のニーズや問題に向き合ったりすることができるようになるのです。 【橋本】アルフォンゾさん、横浜市のユニークさが国際協力の面でより有意義であるということに関してどのように考えていますか。 【ヴェガラ】横浜市のユニークさや良い点について、すでに皆さんが示してくれていると思いますが、私はユニークさを強調したいと思います。  横浜市は、グローバルなスケールで見れば中規模サイズの都市です。しかしながら、世界の中でも最大級の大都市圏の中で成長している都市と言えるでしょう。東京との接続や交流がそれに向けて課題となるポイントです。横浜市が才能ある人材や企業を呼び込むことは容易ではありません。東京の巨大さ、強さが近くにあることが横浜のユニークさなのです。  横浜市は世界の中規模都市の参考になると同時に、大都市圏をどのようにとらえるのか、これがユニークさだと思います。横浜市は、日本の技術や知識を世界とどのように結びつけることができるかを実験する日本のラボ(研究室)だと、私は考えています。日本と世界をつなぐという同じ目的を持ったJICAなど、様々な機関がありますが、横浜市の都市外交は非常に重要な役割を果たすことができると考えています。  知識を共有することはできると思いますが、何らかのシード・キャピタル(資金)も必要です。  ハビタットの事務局長をされているマイムナさんの話ですが、彼女がペナン市長だった頃、ペナン市のプロジェクトに6年ほど一緒に取り組みました。最近、ナイロビでお会いしたときには、世界中の都市を訪問しているとおっしゃっていました。彼女は横浜のイベントに来た時のことを覚えていて、そこで多くのことを学んだと言っています。また彼女は、世界の多くの都市は、プロジェクトを始めるための調査に必要な100万ドルの投資を行うことができないことにより、10億ドルの資金を集めることもできないと言います。  横浜市が日本の技術を彼らと共有することで、世界の都市の未来を形づくる手助けをしようとしている姿を想像してみてください。私は日本、特に横浜市が非常に重要な役割を果たせると期待しています。 ■おわりに 【橋本】今日はお時間を割いていただきありがとうございました。最後に皆さんから一言ずついただきたいと思います。 【ロハニ】今回はありがとうございました。このように知見の共有、ナレッジハブをつくるという点では、すでに多くの成果をあげていると思います。次は、実際の市場と向き合って、ビジネス面に力を入れていく必要があります。アルフォンゾさんのご指摘のように、多くの都市には十分な資金がありません。ナレッジ、プロジェクト、ファイナンスの3つがそろったパッケージを用意しましょう。「ナレッジ・プラス・プラス」、これを横浜市の新しい取組に加えてもらいたいと思います。 【橋本】ナレッジ、プロジェクト、ファイナンス。「ナレッジ・プラス・プラス」ですね。ありがとうございました。 【オルテガ】女性的な視点で少し意見を述べたいと思います。横浜市には資金もありますし、都市計画もありますが、私は最後に林市長のメッセージを伝えたいと思います。彼女はピンチのときこそ、笑顔が大切だと言ったそうです。人々の生活に笑顔を。横浜市は自らの成功を共有することで、アジア太平洋だけでなく、世界の他の都市にも笑顔を届けてほしいと思います。 【橋本】「プラス・プラス・スマイル」、いいですね。では最後にアルフォンゾさん、お願いします。 【ヴェガラ】アジア・スマートシティ会議のこれまでの議論の中で、今日に至るまでの横浜市の発展を知ることができました。横浜市が他の都市との連帯を強め、彼らが自身の将来を考えることの手助けをすることが、横浜経済、ひいては日本経済をもけん引すると思います。 【橋本】非常に強い励ましのメッセージをいただき、ありがとうございます。次は、1月18日のアジア・スマートシティ会議のメインセッションでお会いしましょう。その前に、このプレイベントへ登壇していただき誠にありがとうございました。 【全員】ありがとうございました。 *座談会は2020年12月14日に開催しました。 [登壇者のプロフィール] ビンドゥ・ロハニ氏 前アジア開発銀行(ADB)副総裁 ADBで知識管理と持続可能な開発を担当する副総裁及びADBの運営チームの一員。その前は、ADBで財務管理を担当する副総裁を務める。同氏は、ADBの地域レベルの持続可能な開発を担当する部門(エネルギー、交通、水、都市開発、環境、およびガバナンス)の統括官、クリーン・エネルギー、気候変動、および環境に関する助言を総裁に与える特別顧問などを歴任。ADBに加わる以前は、ネパール政府(インフラ関連部門)に勤務し、またバンコクのアジア工科大学院(AIT)では環境工学プログラムの部門責任者を務めていた。工学博士。全米技術アカデミーの会員。米国科学振興協会のフェロー(特別研究員)。 メリー・ジェーン・オルテガ氏 シティネット特別顧問 フィリピン・ラ・ユニオン州サンフェルナンド市の市長に3期にわたって選出され(1998年〜2007年)、国連地方自治体諮問評議会(UNACLA)、アジア太平洋地域の人間居住の組織であるシティネットの事務局長、国際環境イニシアチブ評議会(ICLEI)の副会長に選出。女性のエンパワーメントを提唱し、サンフェルナンド市の都市開発戦略に尽力したことが評価され、2000年に国連ハビタットから国連スクロール・オブ・オナー賞を受賞した初のフィリピーナであり、2003年にはコンラッド・アデナウアー功労賞を受賞している。現在はシティネットの特別顧問、横浜市のY-PORT事業の特別顧問を務めている。 アルフォンゾ・ヴェガラ氏 ファウンダシオ・メトロポリ代表前都市地域計画国際協会(International Society of City andRegional Planners : ISOCARP)理事長。都市地域計画国際協会は、1965年に国際的に知名度が高い空間設計者・立案者が設立したNGOであり、70か国以上が参加している。アイゼンハワー・フェローシップ、フェロー、2005年からはマドリードにてシンガポール名誉総領事を務める。ナバーラ大学と中央ヨーロッパ大学サンパブロ校にて都市計画を教える。都市・地域計画博士。ペンシルベニア大学客員教授。 ※1 アジア・スマートシティ会議 アジア諸都市、政府機関、国際機関、学術機関及び民間企業等の代表者が一堂に会する国際会議。第9回会議メインイベントは、オンラインにより2021年1月に開催。 ※2 アジア開発銀行(ADB) アジア・太平洋地域を対象とする国際開発金融機関として、1966年に設立。世界最大の貧困人口を抱える同地域の貧困削減を図り、平等な経済成長を実現することを最重要課題として取り組んでいる。 ※3 シティネット(アジア太平洋都市間協力ネットワーク) アジア太平洋地域の都市問題の改善・解決を目指す非営利の国際組織 ※4 ファウンダシオ・メトロポリ 都市の研究、デザイン、イノベーションに関する国際研究拠点 ※5 リー・クアンユー世界都市賞 住みやすく、活気があり、サステナブル(持続可能)な都市創造に顕著な貢献をした都市に贈られる賞として2010年に創設され、シンガポール共和国都市再開発庁とシンガポール都市生活センターの共催により、2年に1度開催されている。