《4》シティネット横浜プロジェクトオフィスによる国際協力の推進〜横浜市の防災分野の取組を中心に振り返る〜 執筆 工藤 由貴子 シティネット横浜プロジェクトオフィス企画課長(国際局国際協力課担当係長) 1 はじめに  シティネット横浜プロジェクトオフィス(以下、「CYO」という。)は、2013年にシティネット事務局がソウル市に移転した後も、会員の期待の大きい事業面での協力を引き続き実施するため、事務局から独立した組織として横浜国際協力センター5階に設立され、横浜市と連携・協力しながらこれまで数多くの国際協力事業を実施してきている。   CYOは現在、所長1名、職員2名、パートタイム1名に横浜市から派遣された職員1名を加えた計5名のスタッフにより運営されている。また、当組織設立の経緯については前述「国際協力を振り返る」9頁を参照されたいが、シティネット全体の組織概要について、はじめに次のとおり概観しておく。  (1)シティネットの会員と構成(2020年11月現在。22か国・地域)※表1  (2)シティネットの分科会   アジア太平洋地域に広がる会員都市・団体の抱える都市課題は幅広く、それぞれ関心を持っている政策分野に特化して活動ができるよう、分科会という制度を取っている。横浜市は4つの分科会のうち、防災、SDGs、気候変動の3つに加盟している。特に、防災分科会については、その活動を牽引する「議長都市」を2013年から務めており、この分野で会員都市において様々な活動を行ってきた(表2)。   CYOは横浜市の各区局と連携し、具体的なプロジェクトの企画・実施を担っている。 2 防災分科会セミナーの活動について   横浜市は、毎年、防災分科会の議長都市として、防災分科会セミナー(以下、「セミナー」という。)を主催しており、CYOはその企画・運営を担っている。セミナーでは、防災分科会の会員に加え、国連機関や各国における防災関連機関、地方自治体、学術機関、NGOなどが一同に会し、それぞれの防災の取組を発表したり、防災関連施設の視察やワークショップに参加したりすることを通じて、知見の共有を図っている。   2009年度、2014年度、2015年度、2017年度及び2019年度には、横浜市にて開催。とりわけ2017年度の第10回の開催時には、初の試みとして世界銀行が実施するプログラムと共同実施をしたため、13か国・地域から67名が参加し、例年より広範な国や地域から参加者が集う大規模なセミナーを実施することができた。   2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、新しい試みとしてオンラインにてセミナーを開催した(3回にわたり開催)。シティネット会員のみでなく、広く一般にも公開したため、例年より格段に多い人々が参加し、新型コロナウイルス感染症への対応に関する海外の最前線の経験や取組実態を含め、防災に関する様々な知見を広く共有することができた。 3 シティネットと横浜市の3つの取組   次に、CYOと横浜市が会員都市と取り組んだ3事例について、それぞれを振り返る。CYOは、それぞれの取組において、横浜市と連携し、会員都市のニーズ把握やそれに基づく協力内容の検討、研修の企画・運営、会員都市と横浜市各区局や関係団体との間の調整などの役割を果たしている。  (1)イロイロ市(フィリピン)〜地域コミュニティを中心とした防災力強化〜   2010年に横浜市で開催されたシティネット主催のワークショップの場で、イロイロ市長から横浜市に対し、頻発する台風(フィリピン全土で年間20件程度)や洪水に対応する防災力強化のための協力要請があった。これを受け、シティネットは横浜市とともに、JICA草の根技術協力事業として2012年より本事業を開始(フェーズ1。以下、「T」という。)。イロイロ市内の5か所のモデル地域を対象に事業を実施した。さらに、一定の事業成果が出たことから、2014年にはこれに継続するフェーズ2(以下、「U」という。)がJICAにより採択。翌年から、支援対象をモデル地域からイロイロ市内全域に拡大し、2017年3月までの期間、事業を実施した。  ア 実施時期等:2012年〜2017年  イ 内容:イロイロ市コミュニティ防災推進事業  ウ 関連所管:総務局危機管理室、消防局、健康福祉局、都市整備局、道路局、経済局  エ 現地派遣及び受入研修の実施:表3  オ 成果:(ア)地域コミュニティの災害対応能力の向上 Tでは5つの川沿いのモデル地区で洪水ハザードマップや要援護リストの作成、防災訓練を実施。また、Uではこの取組が市内の他の地区にも広がるとともに、Tの対象地区の1つに横浜市内企業潟ニメーションシステムが河川警報装置を設置した。  (イ)イロイロ市全体における危機管理体制の強化、学校との防災連携強化 Uでは、イロイロ市役所に新たに設置された危機管理委員会の運用能力を向上させるため、横浜市危機管理室が中心となって、発災時図上訓練を2回実施し組織体制が改善・強化された。  また、横浜市の中古救急車両を寄贈するとともに、その使用方法や救急救命方法の訓練を実施した。横浜市の住民参加型の災害に強いまちづくりの手法の紹介や、障害者、高齢者、子ども、育児中の親を中心とする災害弱者への対応力向上を支援した。加えて、日本のNPO法人プラス・アーツの手法を活用し、現地の学校と連携し「カバラカ・キャンプ」という子ども向けの防災教育イベントや、「カバラカ・ギャラリー」という防災教育施設の設置を支援した。  (2)カトマンズ市(ネパール)〜ネパールの建築物の耐震対策に関する取組〜   海抜1500mの高さに位置し約2500年の歴史を有するネパールの首都カトマンズ市では、度重なる地震により多くの人命が奪われてきた。2015年4月のネパール大地震の震災復興支援として、カトマンズ市、横浜市、CYOの3者で覚書を結び(翌年)、復興を担うカトマンズ市の技術職員の育成支援を目的に、8回にわたり両市で研修を実施した。  ア 実施時期等:2016年〜2019年  イ 内容:カトマンズ市震災復興支援事業  ウ 関連所管:建築局  エ 現地派遣及び受入研修の実施:表4  オ 成果:横浜市建築局が中心となり、様々な研修を実施した。横浜での研修では、地震に強い建物構造や、建築確認申請・審査の流れ、違反建築の対策や工事現場での品質管理手法について講義や視察を実施した。カトマンズでは、現地の建築物や工事の実態を把握した上で、設計通りに耐震性のある建物が建設されるための品質管理や、工事現場での安全管理などについて講義やワークショップを実施した。2019年にはこの支援に基づき、建物を建てる建築主に対し、どのように地震に強い建物を建てるかを啓発するマニュアルが完成した。  (3)マカティ市(フィリピン)〜マカティ市危機管理人材の育成に関する取組〜   フィリピン共和国のマニラ首都圏に属し、外資系企業や金融関連企業が多くオフィスを構えるフィリピン経済の中心地であるマカティ市は、同国の他都市と同様、台風や集中豪雨、地震などの自然災害のリスクを負っており、それらへの対策が喫緊の課題となっている。同市では、防災力の向上のため、市の職員や市民を対象として、防災の基本知識、避難所の運営、救急医療と災害時の公衆衛生、救命救助などについて講義や訓練を行う「防災・減災アカデミー(DRRMアカデミー)」の設置を予定している。これを受け、2018年にマカティ市と横浜市、CYOの3者で同施設の危機管理人材育成支援に関する覚書を締結し、横浜市消防局職員を中心として、研修の実施等の協力を行ってきた。  ア 実施時期等:2018年〜現在  イ 内容:マカティ市危機管理人材育成支援事業  ウ 関連所管:消防局、総務局  エ 現地派遣及び受入研修の実施:表5  オ 成果:今後アカデミーの講師となるマカティ市消防隊員及び危機管理部門職員に対し、受入研修・視察及び現地への職員派遣による訓練・指導を実施し、その結果、安全管理に関する知識や消火・救助に関する実技能力等が格段に向上した(火災を想定した人命救助訓練に要する時間の大幅な短縮など)。また、実施してきた訓練・指導の内容を定着させるため、自らの力で標準化、マニュアル化するようマカティ市に対しアドバイスを行い、体系化が進められていることが確認された。   4 今後の展望〜デジタル技術の活用による新たな国際協力〜    新型コロナウイルス感染症や地球環境問題への対応など、国際社会で叡智を集結し協調・連携していく重要性が強く認識されている。そのような中、ポストコロナ時代の国際協力においては、様々な分野で進むデジタル化・スマート化を取り入れ、デジタル技術を活用することが望まれる。   当該ニーズのもと、CYOは、コロナ禍のニューノーマルに対応した形でのメンバー都市との新たな情報共有手段として、新規システムを立ち上げることとした。   2020年度上半期にCYO のホームページ(http://citynet-yh.org/japanese/)内にケーススタディ・データベースのページを創設。分野毎・実施主体毎などに日本国内のGood Practice(奏功事例)を検索できるページをつくり上げた。 第一段階では、横浜市の奏功事例14例(温暖化対策統括本部、環境創造局、資源循環局、建築局、水道局、教育委員会、都筑区)を掲載済。第二段階としては、前述のページから動的に学べる(動画等の)ページに飛べる仕組みを構築し、同時に、横浜市が設置した横浜国際協力センター内など横浜市に拠点を置く6つの国際機関等(ITTO、WFP、FAO、YOKE、JICA、CYO)の取組を掲載する。   本格稼働予定の2021年度を前に、今後も更に、都市や国際機関、民間機関等の様々なセクターによる大小様々な取組を、幅広い分野にわたって順次掲載していく予定である。  完成後のシステムは、シティネットの会員ネットワーク内の利用に留まるものではなく、世界全域のあらゆるネットワーク利用者からのアクセスが可能となる。CYOは、既に海外に170以上の会員都市等と繋がる独自のネットワークの強みを活かしつつ、次に示すイメージ(図1)のとおり、当該システムを基軸とする、シームレスな(途切れることのない)学びの場の提供を目指している。   ポストコロナ時代。日常において「新・生活様式」がスタンダード化していくように、C YOが展開する新発想の協力手法がひとつの「新・国際協力モデル」となり、国を超え活発に利用されていくことを願って止まない。