調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》大学が担うダブルケアとオープンイノベーション 執筆者 東京都市大学 教授 小池 星多 情報の可視化とステークホルダーの相互変容  横浜市都筑区にキャンパスがある東京都市大学小池情報デザイン研究室は、デザインによる地域活性化の研究、実践を行っている。その研究テーマの一つが「情報の可視化のデザイン」である。情報の可視化とは、情報をグラフィックスなどにして見える化するのだが、情報、データをわかりやすく伝えるように変えていくと、その情報にかかわるステークホルダーの情報共有やコミュニケーションも変わり、ステークホルダーも再編成していくという相互変容を巻き起こす。その相互変容がオープンイノベーションを促進すると私は考える。  小池研究室の情報の可視化の手法には、情報の構造や関係性を可視化する「インフォグラフィックス」、数値データを可視化する「データビジュアライゼーション」、ワークショップなどで議論をその場で模造紙とペンでリアルタイムに可視化して合意形成を促す「グラフィックファリシテーション」などがある。2014年度では、横浜市役所政策局政策課(政策支援センター)の協力を得て横浜市のオープンデータの可視化に取り組んだ。市民に横浜市の現状を知ってもらうために、横浜市のオープンデータを使って横浜市の「災害」、「人口減」、「若者の雇用」、「犯罪」、「ゴミ」など問題についてのデータビジュアライゼーションを制作し、横浜ユースフォーラムにおいて受賞した。 ダブルケア関連の研究会やイベントにおける情報の可視化  2015年度では、政策課が進めているダブルケアの様々な研究会やイベントに参加してフィールドワークを行った。研究会やイベントでは、参加者に配布される予定のテキスト資料をインフォグラフィックスにして提供した。 図1は、研究会で使用した複数のインフォグラフィックスを一つにまとめたものである。さらに研究会での発表や議論の内容を、小池研究室の学生がグラフィックファリシテーションを行い可視化し、可視化したものを参加者が共有しながらさらに議論を進められるようにした。(写真1)  このようにインフォグラフィックスやグラフィックファリシテーションによって、参加者の情報共有や議論の支援を行った。 大学の情報の可視化と共有の貢献  図2は、2015 年度に小池研究室が参加したダブルケア関連の研究会やイベントをフィールドワークした内容を可視化したインフォグラフィックスである。これによると、以下のことがわかる。ダブルケアは、子育てや介護など複数の分野を横断しているため、その関係者も横断的に協働する必要がある。ダブルケアの研究会やイベントには、行政、企業、金融、福祉関係、大学などの様々なステークホルダーが参加していた。しかし、そのイベントの多くは会議型で、それぞれの立場でダブルケアにかかわる活動や要望を発表し合うだけで、すれ違っていたものが多かった。その中で一部のイベントでは、会議型ではなく参加者が同じ立場で問題解決を行うフューチャーセッション的な場が少なからずあった。今後、オープンイノベーションを起こすには、このようなステークホルダーが横断的に協働できるフューチャーセッション的な場を増やすべきである。大学は、このような場に中 立な立場で参加し、インフォグラフィックスやグラフィックファリシテーションによる情報の可視化や共有、合意形成を行うことで、ダブルケアやオープンイノベーションに貢献できると考える。 <インフォグラフィックス制作> 小池研究室4年生 岩崎奨吾 / 臼田ありさ/ 白川友博 / 新川由理 / 永原拓弥